70年代から2000年代初頭にかけて、数多くの名曲を残したインドネシアの伝説的歌手Chrisye(クリシェ)。
インドネシアの大人の方々にとってはChrisyeの曲は、”懐メロ”になるのでしょう。
ただ、今もなおたくさんの歌手にカバーされ続けているChrisyeの曲は、若い世代の人にとっても馴染みのあるものだと思います。
今回の記事では、Chrisyeの名曲とそのカバーを5曲紹介します。
ノスタルジックさ漂うChrisyeのオリジナル版と、アレンジ力が光るカバー版を比較しながらお聴きください。
インドネシアではSang Legenda(伝説の人)として親しまれているインドネシア音楽界の巨匠。1970年代アメリカでの音楽活動を経てインドネシアに帰国後、スカルノ初代大統領の息子であり作曲家グル・スカルノとグル・ギプシーを結成。欧米の音楽にインドネシアの伝統楽器のサウンドを取り入れ、国内のバンドに大きな影響を与えた。2007年にこの世を去った後もなお、その楽曲は数々のアーティストにカバーされ続けている。
Panah Asmara(Chrisye版とAfgan版)
Chrisyeの生前最後のスタジオアルバムSenyawa(2004年)の収録曲。Senyawaは、複数のアーティストとの共作で、CDジャケットには共演歌手の名前がずらり。Panah Asmaraの共演者は、ギタリストのTohpati。
そしてこちらがAfganによるカバー。
AfganのPanaha Asmaraはガンガン矢を撃ってくる肉食系。
一方、Chrisyeはタイミングを窺いながらも、勇気を振り絞って矢を放つ、初々しさがある。
"Hanya kau yang membuatku begini Melepas panah asmara" 「こんな気持ちにさせるのは、君だけ。恋の矢を放つ」 ーPanah Asmara歌詞より
この曲を作曲したのは、 スカルノ元大統領の息子であり作曲家のGuruh Soekarnoputra(グル・スカルノプトラ)。
下の写真、一番右がGuruh Soekarnoputraです。
Guruh Soekarnoputraは数多くの楽曲をChrisyeに提供しており、この記事で後ほど紹介するGalih dan RatnaとKala Cinta Menggodaの作曲者でもある。インドネシア音楽界への貢献度合いが尋常ではない。
Galih dan Ratna (Chrisye版とGAC版)
続いて紹介する曲は、映画”Gita Cinta dari SMA”(高校のラブソング)の主題歌。
Chrisyeのオリジナル版は、テンポがちょっと前のめりな、南国の陽気な高校生。
どんどん転調して余韻を残して消えてく感じ、好き。
対するカバー版は、2019年に全わたしに惜しまれつつ活動休止となったトリオユニット、GACによるGalih dan Ratna。青春の眩しさ満載なMV。見たら100%元気になる。
"Dua sejoli menjalin cinta, Cinta bersemi dari SMA" 「恋をしている2人。 高校から芽生えた恋」 ーGalih dan Ratna歌詞より
Kala Cinta Menggoda (Chrisye版とNoah版)
Kala Cinta Menggoda(愛の誘惑)は、好きな人にはもう相手がいる、葛藤の曲。
Chrisyeの曲はどれも、割と前奏がしっかりあるのが特徴ですが、この曲の前奏は1分と特に長い。
2分42秒から始まる、ガムラン音楽風の歌声が、幻想的で素敵。
カバー版は、人気バンドNoahによるKala Cinta Menggoda。
Chrisye版の軽快さとは裏腹に、悩みに深刻感のあるバラード。
ちなみに、Noahは他にも、”Kisah Cintaku”や”Sendiri lagi”などのChrisyeの楽曲をカバーしています。
"Sejak jumpa kita pertama Kulangsung jatuh cinta Walau kutahu kau ada pemiliknya" 「初めて会った時から、すぐに恋に落ちた。あなたには恋人がいると知りながら。」 ーKala Cinta Menggoda歌詞より
Pergilah Kasih (Chrisye版とD’MASIV版)
別れの曲、Pergilah Kasih(行きなさい、愛する人)。
エコーのかかった歌声、時折入るキラキラした電子音がエモい。
2012年のD’MASIVによるカバーは、オリジナル版よりもテンポを落としたロックバラード。
57秒あたりで現れるギターの合いの手は、オリジナル版でもカバー版でもさりげなくいい味出している。
"Aku rela berpisah demi untuk dirimu Semoga tercapai segala keinginanmu" 「私はあなたのために喜んで別れます。あなたの願いが全て叶うように」 ーPergilah Kasih歌詞より
Badai Pasti Berlalu(Chrisye版とAri Lasso版)
続いての曲は、Badai Pasti Berlalu(嵐はきっと過ぎ去る)
生と死の境界線みたいなコーラスから始まり、低音のパーカッションや尺八のような楽器(絶対尺八ではない)が怪しい雲行きを感じさせる。曲の終盤は再びコーラスが戻ってきて、ライオンキングのような壮大さがある。
伝統楽器を使いつつも、曲調は現代音楽のよう。
Ari Lassoのカバー版は、オリジナルより1.5倍ぐらいのテンポで、だいぶ怪しさが軽減されている。
よくあの曲をロックにアレンジしたなあ。嵐が過ぎ去って、青空が見える。
"Awan hitam di hati yang sedang gelisah Daun daun berguguran Satu satu jatuh ke pangkuan" 「落ち着きのない心の中の黒い雲 落ち葉が1つ膝に落ちた」 ーBadai Pasti Berlalu歌詞より
最後に
ここまで、Chrisyeの楽曲とそのカバーを5曲紹介しました。
Chrisyeの曲は、いろんな歌手に「カバーしたい」と思わせる曲の魅力ともに、アレンジを加えやすいシンプルさがあって、創意工夫しやすいのかもしれません。
ここまで紹介したのは、MVやCDがリリースされている正式なカバーでした。
その他、ライブなどで歌う程度のカバーであれば、それはそれは数えきれないぐらいあると思います。
その中でも好きなのがこれ。
作曲家Erwin GutawaのSalute to Guruh Soekarnoputra(スカルノプトラ先生への敬意)という2014年のコンサート映像。先ほど紹介した、スカルノの息子で作曲家であるGuruh Soekarnoputraが作曲した曲を集めたコンサート。
TulusとRaisaの声が耳心地良すぎる。
皆さんが、好きな曲はありましたでしょうか。
ここまでお読みいただきありがとうございました。
また別の記事で。
コメント