スリランカにまつわる音楽

世界の音楽
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スリランカは「インド洋の宝石」との愛称がつく自然が美しい島国ですが、一方で民族間の対立などの悲しい歴史的背景から「インド洋の涙」とも呼ばれています。さらに2022年、急激なインフレや反政府デモなどで、涙の粒が大きくなってしまいました。

今回はそんな話題の国(?)スリランカにスポットライトを当て、私が「カッコ良い!!」と思ったスリランカにまつわる音楽たちをご紹介します。今回ご紹介するのは、スリランカのメジャー音楽とは少し異なるかもしれませんが、その分私のようにスリランカ音楽にこれまで馴染みのなかった方でも聞きやすいセレクトになっているのではないかと思います。

また、今回ご紹介するアーティストや曲と絡めながら、スリランカの歴史や民族問題にも少し触れることで、私自身もスリランカについての知識を深めていきたいと思います。

スリランカ国外で活躍するタミル系アーティストたち

Priya Ragu

Priya Ragu、カッコよすぎて惚れました!!!

タミル系スリランカ人の両親の元、スイスで生まれ育ったPriya Ragu。プロデューサーの兄JaphnaGoldとともに、R&B×タミル音楽の唯一無二の世界観を作り上げます。34歳でデビューするまでは、スイス航空で航空部品購買のフルタイムの仕事をしていた異色の経歴の持ち主。

ちなみに、ここに貼った”Kamali”という曲は、インドのタミル・ナードゥ州に住む7歳のスケーターの女の子Kamaliについて書いたもの。夢を追うKamaliのように、女の子は良い妻や良い母親になる以上に無限の可能性を秘めている。そんな、全ての少女たちへの想いを込めた一曲。Priya Raguの曲は、中毒性が高い曲が多くて、ちょっと私おかしいんじゃないってぐらい、リピートしちゃってます。

Priya Raguについてもっと知りたい方は、以下の記事がおすすめ!

ELSZ

ELSZは、ハープ奏者、ボーカル、ダンサーの顔を持つアーティスト。オーストラリアとスリランカで人生の大半を過ごし、現在はニューヨークで音楽活動を行っています。ハープの優しい音色と伸びやかな歌声の内には、強い意志を秘めていて、デビュー曲”Poison”の収益の全ては、女性と子供への暴力を排除するための活動を行うWomen In Needという団体に寄付されるとのこと。

M.I.A

イギリス生まれのタミル系スリランカ人ラッパーのM.I.A。M.I.Aは「Missing In Action(戦闘中行方不明)」の略で、タミル人武装組織のメンバーであり行方不明中の父親に対するメッセージだそう。2009年には”Paper Plane”がグラミー賞にノミネートされたり、2012年のスーパーボールハーフタイムショーではマドンナのショーのゲストとして出演したりと、世界的な知名度も高いので、知っている方も多いのでは。

M.I.Aは、歌詞の中で世の中の不条理、第三世界の窮状をアグレッシブに表現します。彼女自身が難民であること、スリランカ内戦に巻き込まれ音信不通の父と亡くなった従兄弟。過酷な自身の体験に基づく歌詞だからこそ、この上ない説得力と力強さがあります。

国外で活躍するタミル系スリランカ人が多い背景

何の前置きもなく、「タミル系スリランカ人」アーティストを紹介しましたが、ここでスリランカの民族構成について触れたいと思います。スリランカは、主に仏教徒であるシンハラ人が7割強を占め、そのほかに少数民族であるタミル人(18%、主にヒンドゥー教)、スリランカ・ムーア人が居住しています。

1948年イギリスから独立後、多数民族シンハラ系の政党が「シンハラ人優遇政策」を掲げ、シンハラ語を唯一の公用語としたり、シンハラ系の大多数が進行する「仏教」に特別な地位を与えます。これに反発したタミル系住民は、過激派組織「タミル・イラーム解放の虎(LTTE)」などの武装組織を組成し、内戦へと発展します。

内戦は、政府によるLTTE抑え込みにより2009年に終結するまで、25年以上もの間続きました。民族と宗教の対立による困難の中、スイスに移住したPriya Raguの両親、イギリスに避難したM.I.Aの家族のように、多くのタミル系スリランカ人が国外へ移住しました。

上記で紹介したアーティストの他に、カナダで活躍するNavz-47、イギリスで活躍するPrittなど、スリランカ国外で活躍するタミル系アーティストが多くいます。彼らは、西洋音楽などの移住先の音楽に触れつつ、自身のアイデンティティであるタミル系の文化を織り交ぜ、時にはスリランカ国内の政治や移住先での差別、自身のアイデンティティに対する複雑な想いを表現しながら、独自の音楽を作り上げています。

参考:https://www.mofa.go.jp/mofaj/press/pr/wakaru/topics/vol40/index.html

スリランカ国内で活躍する注目アーティストたち

さて、ここからはスリランカ国内で活躍する注目アーティストをご紹介します。

Romaine Willis

2021年6月にリリースされたデビューシングル”Milk & Sugar”。Romaine Willisは好きな人と紅茶を飲みながら「He’s milk and sugar in my tea.(訳:彼は紅茶のミルクとお砂糖のように、人生に味わいを加えてくれる存在)」という歌詞を思いついたそう。作詞の経緯が、さすが、紅茶の国スリランカならでは!!

The Soul

どこかメロンコリックな雰囲気を纏いながら、ロック・ブルース・レゲエを柔軟に織り交ぜる5人組バンドThe Soul。デビューアルバム”Round & Around”がオーストラリアの音楽メディアFinding Figaroに取り上げられたり、インドの音楽フェスへ参加、モルディブでツアーを開催したりと、スリランカ国外からも注目を集めています。

個人的には、The SoulのYouTubeチャンネルに上がっている”What’s Up With Time”を川辺で歌う動画がすごく好きなのですが、埋め込みできないのでリンクで貼り付けときます。

Minesh Dissanayake

優しい歌声に、ハート掴まれました。自身のYouTubeチャンネルでは、質の高い洋楽のカバー動画を多く上げていますが、その中に奥ゆかしく紛れ込むオリジナル曲も素晴らしい!Minesh Dissanayakeに関する情報が少なすぎる!世の中よ、彼の歌声の美しさに気づいて!!

2022年の混乱、その中で歌われる曲

2022年7月、大統領逃亡

2022年7月9日。反政府デモが激化し、スリランカ大統領官邸に押し寄せるデモ隊の人々。不謹慎な感想かもしれないけど、大統領官邸のプールで泳ぐ国民たちの姿は、なんか楽しそう。大統領への怒るが積りすぎると、こうなるんだなあ・・。

経済混乱の原因を調べると、新型コロナウイルスの流行による観光業の打撃、ウクライナ紛争による食料・燃料不足、中国への債務依存、農産物のオーガニック化を急激に進めたことによる生産量の低下、などなど、いろいろな原因が挙げられています。

ただし、国民たちの怒りの根源を一言で言うとするならば、ラージャパクシャ家一族が権力を握りすぎていることに集約できるでしょう。スリランカの大統領、財務大臣、内務大臣、さらにはスリランカ航空の社長までもが一族の人間。主要な政治家が身内で固められていては、政策に不備があっても、批判して止めさせる人がいないのだから、国が衰退してしまうのも容易に想像できます。。

今回のデモを受け、ラージャパクシャ大統領は7月12日夜にモルディブへ国外脱出、14日にはシンガポールへ逃亡し辞任を表明、21日には新大統領が決定しました。

参考:https://news.yahoo.co.jp/byline/nishantha/20220404-00289869
https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2022/07/post-99173_1.php

デモの中で歌われていた曲

デモの動画を漁っていたら、”Me Rata Mage Rata”という一曲の歌に出会いました。

“Me Rata Mage Rata”とはシンハラ語で「この国は私の国」という意味。歌詞は、スリランカの肥沃な土壌を讃え、成長する母国の姿を信じる内容です。

悲惨な状況になっても、国民たちが母国を愛する気持ちは変わりません。デモ隊は、この曲を歌いながら、スリランカが悲しい歴史に埋もれる「インド洋の涙」ではなく、「インド洋の宝石」として輝く国の姿を取り戻す日が来ることを祈っています。

x.com

YouTube・Spotifyプレイリスト

私の好きな「スリランカにまつわる音楽たち」を集めました。

YouTubeのプレイリスト。右上の3本線をクリックして開くことができます。

Spotify のプレイリスト。

おまけ:都内で堪能するスリランカ料理

住宅街にひっそりと佇むスリランカ料理屋バンダラランカで、スリランカカレーを食べ、食後にセイロンティーを飲む幸せ。カレーのスパイスの効果か、身体の内側からポカポカしてきます。

今はスリランカに旅行に行けないけれど、いつか行けますように。

あとは、スリランカのスパイスティー「サマハン」もおすすめですよ!!

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