先日、とある都内の台湾式マッサージ店に行った。
私は、とある感染症が流行する前、毎月マッサージ店に行くというのが月課だった。
感染してまで治したい肩凝りはない。
そう思って数ヶ月間、マッサージ・マンスリー・ルーティンから遠ざかっていたのだが、GoToキャンペーン東京開始に伴い、先日、ようやく私も独自の取り組み、GoToマッサージ店キャンペーンを解禁した。
毎月行っている割に、私には行きつけのマッサージ店というものがない。
ホッ◯ペッ◯ービューティーを使って予約すると、大抵、初回限定の割引プランがある。
初回プランの割引と、ある店の常連になってコツコツスタンプカードを貯めて得られる割引を比較した時、どうしても前者の、目先の割引の方が魅力的に映ってしまう。
そんなことで、今回も某ホッ◯ペッ◯ービューティーでたまたま見つけた台湾式マッサージ店にお邪魔した。
雑居ビルの、下がラーメン屋、上が水タバコ屋に挟まれたマッサージ屋だ。
安心してください。マッサージを受けている間中、ラーメンと水タバコの匂いがしたりはいたしません。
店に入ると、のちの担当マッサージ師となる方に、流暢だけれども中華系訛りのある日本語で、消毒液と非接触型体温計を差し出された。とある感染症が流行してから思うが、非接触型体温計という隠れたすご機器を、感染症流行前から製造していたメーカは偉い。
体温計を脇に挟む時代は(ほぼ)終わった。
感染症対策ルーティンを済ませ、マッサージ部屋に案内された私は、久しぶりのマッサージに心ときめかせていた。そして、このマッサージの60分間、せっかくならマッサージ師の印象に残る客になりたい、とよく分からぬ自己顕示欲が芽生えた。
イタリアン料理屋の外国人シェフを見たら、イタリア人だと思うだろう。
福島県物産館で働いている人は、福島出身だと思うだろう。
台湾式マッサージ屋で働いているマッサージ師は、台湾人なのだろうと思うだろう。
そして回答にある程度の自信を持って聞いてみた。
「お姉さん、台湾出身ですか」
私の自信に反して、マッサージ師は気まずそうに応えた。
「いえ、台湾出身ではないです。」
マッサージ師はこう思ったのかもしれない。
(あ、この客、
台湾式マッサージ屋で働いているマッサージ師は、当然台湾人だと思うタイプの客だ。)
ああ、そういえばよく通っていたインドカレー屋の店員はネパール人だった。
そして気まずさをなんとかせねばと思ったのか、マッサージ師は
「台湾に行ったことがありますか。」
自分の出身地のことではなく、台湾ネタに外らせようという意図を感じた。
私は、この台湾出身ではないマッサージ師と、自分の台湾旅行の話をするよりも、台湾出身ではないマッサージ師の出身が気になった。もしかしたらデリカシーのない人間かもしれない。
私は「はい、台湾には行った事があります。お姉さんはどこ出身ですか」と聞いてみた。
ベッドにうつ伏せになっている私の声は、一度では届かなかった。
もう少しだけ大きな声で、繰り返した。
マッサージ師は、「南京出身です」と応えた。
恥ずかしながら、私は南京という都市の名前を聞いて、南京大虐殺しか思い浮かばない、南京事情に関してほぼ無知な人間だった。
南京ってどんなところなんだろう、南京の人は反日感情が高いのだろうか。
もしそうだとしたら、日本に来てマッサージ店で働く南京出身お姉さんは、きっと日中友好における重要人物だ。
ねほりんぱほりん、質問してみたかったが、きっと日本語の上手い彼女は、(私の妄想上)来日して10年目。「なぜ日本に来たんですか」という質問に100万回と応えていることだろう。
そう思った私は、躊躇した。
私だってそうだ。インドネシア 人に「なぜインドネシア語を勉強しているの」と100万回聞かれ、その応対のインドネシア語だけやたら上手くなった。(でも、私はそう聞かれるのが決して嫌だということでは無い。)
私は、「南京は行った事が無いので行ってみたいです」
そうとだけ言って、会話は終了した。
マッサージ師は、「南京に行ってみたい」という私の言葉を、社交辞令と思っただろうか。
マッサージ師は、南京出身の中国人でも台湾式マッサージは出来るのよ、と私に言いたいだろうか。
いや、そこを気にしているのは私だけかもしれない。
きっとこのマッサージ店は、オーナーが台湾人で、そのオーナーと仲の良い南京出身の彼女は、このマッサージ店にヘッドハンティングされたのだ。
そもそも、中国人だとか、台湾人だとかを気にする私のナショナリズム的思想は捨てるべし。
というか私は中国式マッサージだとか、台湾式マッサージだとかに拘りはなく、ただただホットペッパービュー○ィーで安いお店を巡る、マッサージアマチュアでは。
60分という時間は長い。
マッサージでリラックスしつつも、様々な考えを巡らすには充分な時間だった。
マッサージが終わり、マッサージ師は素敵な笑顔で、私にお茶を出してくれた。
ところが。
そこは駅前のマッサージ屋。
駅とマッサージ屋の間にある広場ではちょうど、右翼っぽい人たちが、中国韓国を批判するような演説を行っていた。
優雅にお茶を飲みながらマッサージ後のひと時を過ごす私にも、
そして、レジ周りに立つマッサージ師の彼女にも、聞こえる音量で。
なんとなく、この演説を彼女の耳に届かせたくはない。
推定日本在住歴10年の彼女は、きっとこういう演説を、この駅前の雑居ビルで何度も聞いてきた慣れっ子かもしれないが、こういうのは慣れるもんじゃない。私はそう思った。(あくまでも個人的な感想です。考え方は人それぞれで良い。)
私は、「マッサージ本当に気持ちよかったです。シエシエ〜」と大きめの声で言った。
私の不意打ち「シエシエ」で、何となくマッサージ師の表情が緩んだ気がした。
「指名も出来ますので是非、謝謝再来」
初回限定割引が大好物の私だが、このマッサージ屋にはまた来るだろうと思った。
その時までに南京のことを勉強しておきたい。
以上。
補足:参考までに、「日本人が南京で道を聞いてみた」という動画を載せておきます。(日本語字幕あり)
親切に道を教えてくれる人が多く、南京の人は反日感情が高いのかという私の疑問は杞憂だったのかもしれない。まだまだ世界のことについて、世界の人がどんなことを考えているのかについて、理解を深めなければいけないことはたくさんある。
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